※エリアルちゃんが僕っ娘じゃない


 が死んだ。エミリアの代わりになろうと儀水鏡の幻影術に挑んで失敗した。
 お義母さまは最初からでは成功しないだろうと分かっていたし、もちろん引き止めもした。だって私よりも、ましてやエミリアよりも魔力が弱かったのだ。そんな弱小召喚士など術に飲み込まれて当然だ。だけど誰に似たのかはとても強情で言いつけを聞かなかった。だから死んだ。

 その後エミリアも死んだ。はとんだ無駄死にだったというわけだ。

 私はを想って、アバンスくんはエミリアを想って、二人でばかみたいにわんわん泣いた。けれど私は、エミリアが死んだことに何も思うところがなかった。
 強いて言うならざまあみろ。きっとあの子がいなければが死ぬことはなかったんだもの。絶対、絶対。

 アバンスくんは知らないだろうけど、はずっと彼のことが好きだった。彼の隣にいつの間にか当たり前のようにエミリアがいるようになってからは、潔く静かに身を引いた。でもあの二人が並んでいるのを見るたびには意識をどこか遠くへ飛ばしてしまう。そうなると私がどれだけ気を引こうとしても、いくら楽しい話題をふっかけても、しばらく戻ってくることはなかった。

 優しいのことだから二人を引き離したくなくて、自分がエミリアの代わりになろうとしたんだ。好きな人の幸せのためなら自分なんか投げ出してもいいと思ったのね、ほんとばか。私はどうすればいい、の。

 大事な人を失ったお揃い者どうし仲良くしましょうとでも言いたかったが、すでにアバンスくんの姿はなかった。向こうに見えたのはみにくい竜のような化け物(まあ、私も他人のことはあまり言えないが)。
 ああ、あんなナリでも彼らは一つになれたのね。羨ましい。写魂鏡の力を使えば私もと一つに――なんて淡い希望はお義母さまによって簡単に打ち砕かれてしまった。お義母さまによると、の魂はここにあるわけでもヴェルズに持っていかれたわけでもないらしい。行方不明、悪く言うと迷子だ。まったくどこまでも世話のかかる。つまり儀式を行ったところで失敗するのが落ちだということを言いたいらしい。あーあ。

 私の手元に残ったは空っぽのからだだけ。このふっくらとした唇が弧を描くことも、ぷにぷにとした頬が桜色に染まることも、もう二度とないのだ。心の全部をさらっていくような声が私の名を紡ぐことだって、もう叶わないのだ。

 せめて、からだだけでも。
 背徳的な行為をしているとは思う。けれど眠ったままのが起きることを願ってその唇に自分のものを落とすのだ。唇が重なろうとした刹那、の抜け殻を闇が覆いそのままぱっくりと呑みこんでしまった。
 腐れヴェルズがもう死のにおいを嗅ぎつけてきやがった、私のうでは空を抱きしめる。

 ああ、こんな世界なんて滅んでしまえばいいのに。

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