「――で、手札のスター・チェンジャーでドッグのレベルを上げてゼンマイスターを呼んだらいいかな」
「いや、この場合ならゼンマイ・ドッグとゼンマイ・ソルジャーの効果と合わせてティラスを召喚すればいい」
「そっか……やっぱりアストラルはすごいね、いつもありがとう」

 当然のことをしたまでだ、と少し得意げに鼻を鳴らしたアストラルに遊馬は一瞥をくれる。その視線をアストラルと一緒にカードと睨めっこをするへと移した。
 アストラルの姿は本来、遊馬にしか視認できない。実際に遊馬の友人である武田鉄男や観月小鳥には彼の姿が見えていないようだった。そんな中で、クラスメイトのにはアストラルがしっかりと見えていた。

 はカードの精霊が見えると口にするせいで、クラスでは電波少女という扱いを受けていた。しかし遊馬は確信した。には自分たちに見えない何かが本当に見えているのだと。そしてはアストラルに興味を持ち、毎日のように遊馬の元へ来るようになった。

「ねぇ、今度デュエルしようよ」
「デュエルか……考えておこう」

 着実に二人の仲が深まるにつれ、遊馬の苛立ちも募っていった。素っ気ない態度をとっているつもりなのだろうが、今のアストラルの顔はほのかに緩んでいる。決して遊馬には見せない顔だ。そしても教室では見せないような笑顔を浮かべている。

「観察結果その5、君はデュエルタクティクスにおいては聡いようだ」
「そこだけ?」

 むっと眉を寄せたに詰め寄られ、アストラルは僅かにはにかんだ。その表情を見て照れるように頬を赤らめたは、顔を見られまいと慌てて俯いた。伏せてしまったにアストラルはきょとんと目を丸め、首を傾げるような素振りを見せる。

 こいつら、俺のいない所でやってくれればいいのに。
 遊馬の嘆きが二人に届くことはない。

といる時間は私にとって楽しい。ありがとう」
「えっ、こっちこそいつも付き合ってくれてありがとうなんだよ……」

 なんでそんな優しい声出すんだよ。なんでそんな嬉しそうな顔するんだよ。大体俺といるときは楽しくないっていうのか。俺も楽しいわけじゃないからいいけど。アストラルがいなきゃは俺に近づいてきてくれないし。
 そこまで考えて遊馬ははっと我に帰った。
 俺、どっちに嫉妬してんだっけ。
 はっきりとしない自分の気持ちがさらに情けなく感じられて、遊馬はその場にごろりと寝転んだ。そんな遊馬を、アストラルとの二人が覗き込んでくる。

「とんま、もう寝るのか」
「とんまじゃなくて遊馬だ! 明日のかっとビングのために今日は寝る!」
「私、かっとビングしてる遊馬くん好きだな」

 遊馬がその言葉に飛び起きると、そこには頬を緩めて笑うの姿。先程まで悶々としていた心もいつの間にか晴れている。遊馬の心は酷く単純だった。アストラルも最初は驚いたようにを見ていたが、すぐに鋭い眼光を遊馬に浴びせる。そして遊馬も負けじと勝ったビング、と呟いて勝ち誇った笑みをぶつけた。

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